中性脂肪の数値を下げるには、今の生活習慣をほんの少しだけ変える必要があります。
ほんの少し、食べるものを変えたり
ほんの少し、活動量を増やしたり。
変えるのは“ほんの少し”でいいです。
このページでは中性脂肪の値を下げるための方法をご紹介します。ご自身に合う“ほんの少し”が見つかれば幸いです。
食べるものを変える
中性脂肪の数値を下げるには、摂取しているエネルギーの量を減らすか別の食べ物に置き換える必要があります。でもお酒はやめられない、お菓子はやめたくない、といったご希望もあろうかと思います。そこで他の方法で減らせないか探してみましょう。
その1 : 少しだけ糖質を別の栄養素に置き換える
まずは、少しだけ糖質を食物繊維かたんぱく質に置き換えるのはいかがでしょうか。
糖質はパンなどの炭水化物や果物、スポーツドリンクを含むジュース、に多く含まれています。
食物繊維は炭水化物の一種ですが、消化吸収されない栄養素です。根菜類や豆類、きのこ類に多く含まれています。
糖質を別の物に置き換える方法をラーメン大盛りで実践するなら、大盛りを普通盛にする替わりにトッピングを追加してください。追加するトッピングのうち、海苔やメンマ、ネギなどは食物繊維への置き換えになりますし、煮卵やチャーシューはたんぱく質への置き換えになります。
たんぱく質に置き換える際は、豚の脂や鳥皮などが少ないものにするともっと良いでしょう。動物性の脂に含まれる飽和脂肪酸がLDLコレステロールを上げることがあるため、できれば避けたいところです。煮卵についてはコレステロールが高値の方は選択しないでください。
その2 : 食事の前に水を飲む
中性脂肪の値を下げるために、食事の前に水を飲むのはいかがでしょうか。食事の前に水を飲むと中性脂肪の値が下がったという研究報告があります。
研究の内容は、2型糖尿病の患者さんを対象に8週間にわたり、朝食の30分前に250mL、昼食の30分前に500mL、夕食の30分前に250mLと1日1リットルの水を飲み続けたグループと、飲まないグループで空腹時の測定値を比較した、というものです。結果、水を飲んだグループの中性脂肪の値が下がり、体重も減少しました。
30分前が難しい場合は、朝起きたらすぐコップ1杯の水を飲むようにする、朝食から昼食の間には500mLの水を飲むようにする、などでも構いません。
あるいは食事と一緒に同量の水またはお茶を飲むという習慣でも同様の効果は期待できると考えられます。
その3 : 食べた物を記録して減らせるものを探す
「中性脂肪の値は下げたいけど、お酒はやめられない、お菓子もやめたくない。減らせるものなんてない」とお考えの方は一度、飲み食いした物を全て記録してみませんか。意外と「これ無くてもいい」ものが見つかるかもしれません。
お酒とお菓子も含めて、食べたものをチョコレート1個、缶コーヒー1本、果物1片まで、できるだけ細かく記録してみましょう。写真を撮っておくと後で解析してくれるアプリもあるようなのでご活用ください。
食べた物を記録すると、エネルギーだけでなくその内訳や塩分量なども計算してくれます。
食べている物が大体把握できたら「これ減らしても大丈夫」や「これ無くてもいい」と思えるものを探してみてください。
その4 : 食べるものをたんぱく質、脂質、糖質の順で決める
中性脂肪の値を下げる食事に興味を持たれた方には、たんぱく質、脂質、糖質の順に食べる物を決める方法はいかがでしょうか。この項目は日本人の食事摂取基準2020年版から生活習慣病の予防を目的とした栄養の摂取の仕方を中心にお伝えします(1)。
まずは、肉や魚、豆類に含まれるたんぱく質を、体重1㎏当たり1g毎日摂ることを意識してみてください。活動量が多い方や運動習慣のある方はもう少し多い方が良いと考えられます。その場合は1日に必要なエネルギー量から見積もってみてください。
1日に必要なエネルギー量は、活動量の少ない女性で1,400~2,000kcal、男性で2,000~2,400kcal程度です(2)。中性脂肪の値を低く抑えた状態をキープするには、必要な栄養素を確保しながら、お酒も含めて食事を楽しむことが重要です。
このうち、たんぱく質に13~20%程度を割り当てることが推奨されています。
焼いた肉や魚の2~3割にたんぱく質が含まれているので、体重70㎏の人がたんぱく質70gを肉や魚から取るなら250~350gとなります。含まれるアミノ酸の比率が異なりますのでいろんなたんぱく質を組合せた方が良さそうです。
しかし、実際にそれだけのたんぱく質を食べようとすると脂質の割合が23%を超えることがあります。
例えばたんぱく質が多いイメージのある豆腐や納豆の栄養を見てみましょう。
エネルギー量を見ると、健康的なイメージのある豆腐も脂質の方が多いです。
次に肉や卵の栄養を見てみましょう。
ぶた肉の脂身やとり肉の皮まで食べると、エネルギー量はたんぱく質よりも脂質の方が多くなりがちです。
たんぱく質を意識して食べる際は、摂り過ぎた脂質のエネルギー分だけ、炭水化物を減らす方向で調整してください。ご飯も食べたい、デザートも食べたいという場合は脂身や皮は食べないと決めてしまった方が楽かもしれません。
番外編 : ストレスから逃げる
「中性脂肪の値を下げるためにはお酒を減らせばいい、食べすぎなければいい、と頭では分かっていても実践するのは難しい。できないのは自分の意志が弱いからだ」と思っていませんか。
それ、ストレスのせいかもしれません(4)。身体的な苦痛や心理的不安によるストレスを受けている人は、一度身についた習慣を変えることが難しいそうです。頭では理解していても行動に移せない、という実感がある方はストレスが原因かもしれません。
仕事や人間関係などでストレスが溜まっている方は、思い切ってその環境から抜け出すことで飲みすぎ、食べすぎが減って、中性脂肪の値が下がるかもしれません。
とはいえ、簡単に抜け出すことが難しい方が大半と思います。そこで、ストレス解消のために新たな趣味や楽しみを探すのはいかがでしょうか。他のことを考えずにそれに没頭できる時間が作れるとストレス解消に繋がります。
活動量を増やす
中性脂肪の数値を下げるには、消費するエネルギーを増やすというアプローチもあります。
でも運動する時間が取れない、どういう運動をすればいいか分からない、といったご意見もあろうかと思います。そこで簡単な方法からご紹介します。
その1 : じっとしている時間を減らす
運動する時間が取れないという方は、日常生活での活動量を増やす方法はいかがでしょうか。
座っている時間(座位時間)が長い生活は、中性脂肪の値を上げますので、こまめに動くことをお勧めします(5)(6)。お仕事の関係でじっとしている時間が長い方は定期的に休憩を取って歩く、あるいはストレッチなどで体を動かすなど工夫が有効です。電車やバスで座らないなども1つの方法です。
その2 : 椅子スクワット
じっとしている時間を減らすに関連して、椅子スクワットもご紹介します(7)。
椅子に浅く腰掛けてスクワットの要領でゆっくり立ってゆっくり座るという動作を繰り返すスクワットです。ゆっくりというところがポイントです。
同じ椅子スクワットという名称で、椅子につかまってスクワットするものもあります。
こちらもこちらで効果的ですので、座りっぱなしを避けるのと合わせて試してみてはいかがでしょうか。
筋トレは筋肉痛になるまでやると続きにくいので、負担の軽い回数から始めましょう。
その3 : 1日7500歩以上を目指す
日常生活の中で1日の歩数が少ない人は7500歩以上を目指してみてください。近所に適した公園などが無い場合は、ご自宅と最寄り駅の間を往復してみるのはいかがでしょうか。
もっと歩けるという方はさらに歩いて歩数を増やしてみてください。10,000歩程度までは中性脂肪の値に影響があるようです(図)(8)。
その4 : 有酸素運動でも筋トレでもいいから1日10分運動を生活に取り入れる
「10分でいいの?」と思われるかもしれませんが、毎日でも続けられる程度であることが重要です。有酸素運動でもレジスタンス運動(筋トレ)でもどちらでも構いません。
有酸素運動を例に取ると、80m/分で散歩する(不動産情報などにある駅から徒歩〇〇分と同じ速さ)、筋トレを例に取ると椅子スクワットのように軽い負荷をゆっくり行うスロートレーニングから始めると怪我もなく始められるはずです(9)。
習慣になってきたら距離を伸ばしていくもよし、筋トレの負荷を上げるもよしです。
●関連記事:スロートレーニングとは | e-ヘルスネット(厚生労働省) (mhlw.go.jp)
その5 : 体を鍛える
中性脂肪の値を下げるには、レジスタンス運動いわゆる筋トレも十分有効です。
確かに有酸素運動の方がエネルギー消費時間を確保できるという利点はあります。ですが、筋肉量が多いと血液中の中性脂肪を分解してくれる酵素LPL(リポ蛋白リパーゼ)も増えるので、筋トレもお勧めです。
運動習慣がない方は、上記にもあるスロートレーニングから始めることをお勧めします。
始める・習慣を維持する
中性脂肪の数値を下げたいと思っても、なかなか最初の一歩を踏み出すのは難しいですよね。そこで、中性脂肪の値を下げるための生活習慣の始め方や続ける方法についてもご紹介します。
習慣とはある目的のために行っていた行為のうち、それだけを繰り返すようになったものです。例えば学校や仕事に遅れないために目が覚めたら時計を見ていたけど休日でも目が覚めると時計を見るようになったとしたら「目が覚めたら時計を見る」は習慣になったと言えます。
また習慣になった行動は“きっかけ”によって思い起こされてほぼ無意識に行動することで満足感や安心感を得ます。
そんな無意識に行動する習慣の中に中性脂肪の値を上げるものが含まれているなら、少し変えたいところです。これまでの習慣をいきなりやめたり新しい行動を続けたりするのは難しいと思います。「この方法なら必ず生活習慣を変えられる」というものは残念ながらまだ見つかっていませんが、以下のコツを併用しながらチャレンジしてみてください(10)(11)。
その1: 自分に教えるつもりでやってみる
中性脂肪の値を下げる行動を自分自身に教えるつもりでやってみるのはいかがでしょうか。
「糖質を別の栄養素に置き換える」で例に挙げた「ラーメンの大盛りを普通盛に変えてトッピングを追加する」という行動を自分に教えるつもりでやってみてください。この通りにできなくても構いません。できるようになるまで辛抱強く丁寧に自分に教えてあげてください。
その2 : きっかけを決める
中性脂肪の値を下げる行動を行うきっかけを決めるのはいかがでしょうか。
例えば「食事の前に水を飲む」という行動を達成するための方法の1つとして「トイレに行く」という行動をきっかけにして「トイレに行ったら必ず水を飲む」と決める、といった具合です。
他にも「テレビをつけたら立つ(座らない)」や「お風呂に入ったら腕立て伏せを20回やる」など、日常生活と「中性脂肪の値を下げる行動」を結び付けると習慣に変えていけるかもしれません。
その3 : 薬局で中性脂肪を測る
今の中性脂肪の数値を確かめたい時、中性脂肪の値を下げるために頑張った成果を確認したい時、薬局もご活用ください。
ゆびさきセルフ測定室というステッカーが貼ってある薬局で血液検査ができます。中には中性脂肪が測れない施設もありますので詳しくは直接施設にご確認ください。空いていれば10分もかからずに結果が手に入ります。
その4 : 次の“ほんの少し”を作る
中性脂肪の値を下げる行動のどれか1つを試してみて、それがうまくいってもいかなくても、次の“ほんの少し”を探してみるのはいかがでしょうか。
最初の1つがうまくいかなかったら、自分には合わなかったと考えて次にいきましょう。
もし、うまくいっていたら別の“ほんの少し”と組合せてより高い成果を目指しましょう。
番外編 : 飲食を別の行動に置き換える
中性脂肪は下げたいけど、お酒はやめられない、時間が空くとお菓子を食べてしまう。
お酒やお菓子を摂る習慣を別の行動に置き換えることができないか考えてみませんか。
習慣とは、何かのきっかけと満たしたい欲求とをつなぐ行動のことです。
例えば「夜お風呂に入る」というきっかけと「乾いた喉を潤したい」という欲求を繋ぐためにお酒を飲むという行動が繰り返されているというのが習慣です。このお酒を炭酸水などのノンアルコール飲料に置き換えることはできないでしょうか。
もしできる場合は、少しずつお酒を別の飲み物に置き換えてみてください。
もしできない場合は、欲求の部分が別の理由と考えられます。お酒を飲むことで満たされる欲求を考えて、習慣を別の行動に置き換えてみてください。
時間が空くとつい何かを食べてしまう場合の欲求は何でしょうか。手持ち無沙汰あるいは退屈と感じているからではないでしょうか。そんな時は手を動かすのはいかがでしょうか。例えば折り鶴を折ってみるとか。日記を書いてみるとか。
中性脂肪の値を下げるための方法をいくつかご紹介しました。始められそうな“ほんの少し”が見つかって今日から試していただけますと幸いです。
中性脂肪の値を上げるのが生活習慣なら、下げるのも生活習慣です。続けられないものは習慣ではありません。続けられることの中で探してみてください。
もし、いろいろ試したけどどうしても中性脂肪の値が下がりきらない、といった場合は一度医師に相談することも選択肢に入れてみてはいかがでしょうか。
病院には、怪我や痛みなど何らかの体の不調があって初めていくものというイメージをお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。だから痛くもなければ体の不調も感じない中性脂肪のことで受診するのは変な感じがすると思います。
でも大丈夫です。中性脂肪の値だけが高い段階でも、数値が高いことが気になる、数値を下げたいと思ったら医師に相談してみましょう。ご自身の体のことを知りたい、健康になりたいという思いに医師も寄り添って対応してくれます。
また、1度受診するとずっと通い続けないといけないといったイメージもありますよね。必ずしもそういうわけではありません。医師に相談して、原因が明らかになることで、今のあなたに必要な“ほんの少し”がみつかるかもしれません。
もちろん他に検査値異常がある場合はそちらを放置せずに行ってください。
生活習慣病は生活習慣を変えればよくなることもあります。なかなか難しいかもしれませんが、今のうちから取り組んでみましょう!